コラム

75 交通事故による負傷の治療に健康保険を利用できるか

2019年05月15日

 交通事故により負傷した被害者は、病院等の医療機関で治療を受けざるを得ません。

 その際、被害者は、自身が加入する健康保険を利用することはできるでしょうか。

 

 交通事故による通院において健康保険が利用されていない場合は多いように思われますが、傷病が交通事故によるものであったとしても、原則として健康保険を利用することができます。

 

※ただし、被害者が労災保険の被保険者の立場にあり、その事故が業務災害、あるいは通勤災害に該当し、労災保険の適用対象となる場合は、労災保険が優先的に適用される場合は健康保険を利用できない(健康保険法第55条1項)など、一定の例外があります。

<参考:健康保険法>
(目的)
第1条 
 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

(他の法令による保険給付との調整)
第55条
1 被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
2~3 省略

 

 なお、傷病が交通事故によるなど第三者の行為による場合、具体的事情によっては、その治療費は、本来、その第三者が損害賠償責任に基づき最終的に負担するべきものです。

 被害者が健康保険を利用すれば、健康保険組合や市町村などの保険者は、療養の給付などとして医療費の一部を負担することになり、被害者の損害は一部補填されることになりますが、これによって加害者たる第三者が負担を免れる理由はありません。保険者は、保険給付を行った範囲で、事後的に、第三者に対して負担を求めることになります(求償の問題。健康保険法57条、国民健康保険法64条)。

 そこで、保険者による第三者への事後的な求償に備え、治療の原因となった傷病が第三者の行為による場合、治療を受ける者(交通事故の場合には被害者)は、「第三者行為による傷病届」の提出を求められることになります。

 

 被害者は、交通事故による負傷の治療に自身の健康保険を利用するべきでしょうか。

続く

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
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