コラム

121 【相続問題】被相続人名義の預貯金口座からの生前の出金と特別受益

2023年01月7日

「特別受益」の問題と関連して、被相続人の生前に被相続人名義の預貯金口座から出金がなされていたことが相続開始後に明らかとなり、当時の被相続人の生活状況からすると、被相続人本人が取得したとは考え難く、ある相続人が取得したのではないかが疑われ、このことを巡って争いとなる、というケースが考えられます。

                                                                                                                            このケースを検討する前提として、相続人が、被相続人名義の預貯金口座からの出金状況を把握するためには、対象となる預貯金口座の取引履歴を取得する必要がありますが、一般的に、相続人は、単独で、被相続人名義の預貯金口座について、金融機関に対して取引履歴の開示を求めることができる、と考えられています。

これは、最高裁判所平成21年1月22日判決(相続人の1名が、金融機関に対し、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴の開示を求めた事案)が、「金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うと解するのが相当である」、「預金者が死亡した場合,その共同相続人の一人は,預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが,これとは別に,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法264条,252条ただし書)というべきであり,他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない」と述べ、相続人は、単独で(つまり他の相続人らの同意なくして)、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴の開示を請求できる、と判断したことによります。

なお、近時、このような情報開示請求に対しては、金融機関側から相当額の手数料を請求されるのが一般的です。

 

ある相続人が、被相続人の了承を得た上で、被相続人名義の預貯金口座から出金し、これを取得していたとすれば、被相続人から、その相続人に対する財産の贈与があったとして「特別受益」の問題となる、と考えられますので、これは遺産分割の際に斟酌されるべき事情となります。

他方、ある相続人が、被相続人に無断で、被相続人名義の預貯金口座から出金して取得していたとすれば、被相続人は、生前、その相続人に対して金銭の返還請求権を有していた、と考えることができ、この請求権が遺産の範囲に含まれる、と考えることができます。そうしますと、やはり、これは遺産分割の際に斟酌されるべき事情となる、と考えられます。

 

被相続人名義の預貯金口座からの出金を巡って相続人間で争いがあるとすれば、どのような点が争われているのかにもよりますが、遺産分割に関する調停や審判とは別に、地方裁判所などにおける民事訴訟手続で解決が図られるべき場合もあるものと考えられます。

 

弁護士 八木 俊行

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