コラム

120 【相続問題】被相続人名義の預貯金口座からの生前の出金と特別受益

2023年01月5日

遺産分割は、相続開始時点における被相続人名義の財産の帰属に関するものです。

それでは、被相続人の生前に、ある相続人が被相続人名義の財産を無償で(あるいは十分な対価を負担することなく)取得していたとすれば、この事実は、遺産分割において、どのように考慮されるでしょうか。

 

例えば、被相続人Xの子として、Y1、Y2の2名がいる状況で、Xがその生前、Y1にのみ預貯金の相当額を贈与していた、とします。

この場合、原則どおり、被相続人X死亡時におけるXの財産(遺産)のみを対象として、Y1とY2は2分の1ずつ取得する、というのでは、不公平です。

 

このような不公平を是正するため、民法903条は、「特別受益者の相続分」とのタイトルのもと、その1項で、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」と定めています。

単純化しますと、前記の例では、被相続人X死亡時の財産Aに、Y1がXから贈与された財産Bを加算したものを相続財産Cとし、Y1は、Cの2分の1相当額から生前贈与された財産Bを控除したものを取得し、Y2は、Cの2分の1相当額を取得する、ということになります。

 

「ある相続人に対して生前贈与があったとしても、最終的な取得額は各相続人間で不公平が生じないよう調整する」という「特別受益」の考え方は、シンプルで分かりやすいものですが、現実には、そもそも、相続人の誰が、いつ、どのような贈与を受けていたのか、よく分からない、ということも多く、特別受益に関しては、民法903条1項を適用する前提のところで争いになるケースが多いように思われます。

 

また、民法903条3項は、「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う」と定めており、例えば、被相続人が、ある相続人に対する生前贈与について、将来の遺産分割の際に考慮してはならない、などと述べていたとすれば、これに従う、ということになります。

そのため、特別受益に関しては、被相続人の生前の意思表示を巡って争いとなることも考えられます。

 

弁護士 八木 俊行

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