コラム

74 平成29年民法改正(2) 消滅時効が変わる⑥

2019年05月14日

先回からの続き 

 これまでの民法の定めは、例えば、「時効の中断」との文言は、日本語としては、それまで進行してきた時効期間の起算を一時的に停止するのみ、と読むのが通常と考えられるのに、その意味は時効期間をゼロに戻すことであるなど、一見して分かりにくいものであったことは否定できません。今般の法改正により、法律上のルールは理解しやすいものとなったと言えるでしょう。

 

 平成29年民法改正によって、時効に関して、「時効の中断」という概念はなくなり、今後は、「時効の更新」や「時効完成の猶予」という概念でもって考えることになりますが、基本的に実質的なルールに大きな変更はありません。

 ただし、ルールの変更が全くないわけではありません。例えば、法改正に伴い、新たに「当事者間の協議」によって「時効の完成猶予」の効果が生じるという制度が創設されました。

 これを定める改正後民法151条は、次の通りです。

<改正後民法>
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
151条
1項 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
1 その合意があった時から一年を経過した時 
2 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時 
3 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時 
2項~5項 省略

 要するに、権利者と義務者の間の合意によって、一定期間、時効の完成を猶予させることができることになった、ということです。条文にあるとおり、この合意は書面でなされることが必要です。

 

 なぜ、このような制度が新設されたのでしょうか。

 これまでは、例えば、債権者と債務者の間で、ある債権を巡り、紛争解決に向けた交渉が継続していたとしても、債権者は、消滅時効の完成を防ぐために「催告」、あるいは「請求」、すなわち訴訟提起(あるいはこれに準じる調停申し立てなど)などの措置をとらざるを得ませんでした。債務者にとって、紛争解決に向けて債権者との交渉を継続すること自体は受け入れられるとしても、係争中の権利を全面的に「承認」することなどあり得ないことだからです。

 しかしながら、紛争当事者の双方が、さしあたり交渉による解決を図る意思を有しているにも関わらず、裁判所に何らかの手続を申し立てなければならないとすることは、相当とは考えられません。裁判所にとっても、必ずしも紛争解決のために裁判上の手続を必要としているわけではない案件に対応せねばならないことは、無用の負担となります。

 このような背景を踏まえ、当事者間の合意により、一定期間、権利の消滅時効完成を猶予させることができる、という制度が創設されました。

 したがって、今後は、時効完成を遅らせることのみを目的とした裁判上の手続は減少するものと予想されます。

続く

弁護士 八木 俊行

伏見通法律事務所
名古屋市中区錦2丁目8番23号
キタムラビル401号
(地下鉄伏見駅1番出口・丸の内駅6番出口各徒歩約2分)
法律相談のお申し込みは