コラム

63 平成30年民法改正(3) 配偶者短期居住権の創設①

2019年04月23日

 平成30年7月の民法改正により、先回のコラムで取り上げた「配偶者居住権」(▷コラム61「平成30年民法改正(2) 配偶者居住権の創設」)のほかに「配偶者短期居住権」が創設されました。

 

 改正法(改正民法第1037条)によれば、「配偶者短期居住権」とは、「被相続人が所有する建物に以前から無償で居住していた配偶者が、被相続人死亡後も、引き続き一定の短期間において建物を無償で使用する権利」と言うことができるでしょう。

 相続分野においてこのような権利が創設されたのは、どのような理由によるのでしょうか。

 

 夫婦が居住する建物に関して、配偶者の一方が法的権利(所有権)を有し、他方配偶者は特段の法的権利を有していない、という例は多いものと思われます。すなわち、戦後日本社会では、かつては、近時と比べ、全世帯数に占める専業主婦世帯数の割合が多かったことはよく知られているとおりであり(▷コラム46「結婚と離婚の法律問題(8) 婚姻の効力・婚姻費用の分担)、そのことの帰結として、夫婦が居住する建物に関し、夫が法的権利(所有権)を有し、妻は特段の法的権利を有さない、という例は相当するあるのではないでしょうか。

 このような状況で、夫が先に死亡したとすれば、どのようなことになるでしょうか。

 相続人が妻のみであるならば、妻は建物に関する権利を含めた遺産を承継することになります。
 しかしながら、妻のほかにも相続人(法定相続人)がいるならば、建物の所有権などの権利は相続人らへ承継されることになります。

 当然に妻が建物に関する権利を承継することにはなりませんし、法律的に見れば、妻は、建物を利用する根拠となる権利を有していない、ということになります。

 遺産の処分のあり方は、相続人間の協議で決するわけですから、配偶者は、他の相続人との関係によっては引き続き建物に居住することができないかも知れません。
 また、建物での居住を継続できるとしても、建物を使用収益することの対価(賃料)の支払いを求められることになるかも知れません。

 したがって、これまでの法制度の下では、被相続人と同居していた配偶者の生活状況は、相続開始を境にして大きく変わってしまう可能性がありました。

 

 「配偶者短期居住権」は、従来の法制度におけるこのような不都合を是正するため、一定の要件を満たす場合、相続開始後、配偶者に対して、一定期間に限られるものの、引き続き建物に無償で居住する権利を認めたものである、と言うことができます。

続く

弁護士 八木 俊行

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