コラム

53 結婚と離婚の法律問題(12) 貞操義務違反と最高裁平成31年2月19日判決

2019年04月4日

先回からの続き

 貞操義務違反と、先日の最高裁判決(最高裁判所平成31年2月19日判決)との関係について考えてみたいと思います。

 最高裁判所平成31年2月19日判決は、「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」との判断を示しました(なお、同判決は「特段の事情」について、「当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情」と述べています。▷コラム33 不貞行為と離婚慰謝料1 ▷コラム34不貞行為と離婚慰謝料2)。

 まず、当然ながら、この最高裁判決は、前記事例で言うところの甲からAに対する慰謝料請求を否定するものではありません。
 甲は、配偶者乙と不貞行為に及んだAに対して、権利(配偶者乙の貞操を独占する権利)の侵害により精神的苦痛を被ったとして慰謝料を請求できると考えられます。

 最高裁判所平成31年2月19日判決も「夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして」と述べ、当然ながら、不貞行為を理由とする不法行為責任自体は肯定しています。

 

 では、前記最高裁判決の意義はどこにあったのでしょうか。

 端的に言えば、この権利は、権利者(甲)が事情を知ってから3年間で消滅時効により消滅します。
 諸事情により、甲は事情を知った上で、あえてAに対して賠償請求権を行使しないということもあるでしょう。
 最高裁判所平成31年2月19日判決は、このような場合において、3年間が経過後に甲乙夫婦が離婚したとしても、改めて、Aに対して、甲乙夫婦が離婚したことを理由とする賠償請求権を行使するようなことは、特段の事情がない限り認められない、との判断を示したものであり、この点に意義があったものと考えられます。

 

 ところで、慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償金であり、その金額は、前記事例では甲の精神的苦痛の大小によって決せられるべき性質のものです。

 このような事例における甲の精神的苦痛の大小は、婚姻期間の長短、それまでの夫婦の関係、不貞関係が継続した期間、これによる結果(婚姻関係は継続したのか、破綻したのか、離婚したのか)といった諸事情の総合考慮によって決せられるのでしょう。すなわち、慰謝料の金額もこれらの諸事情の総合考慮によることになると考えられます。

 そうしますと、不貞行為を理由とする慰謝料請求権が消滅しないうちに夫婦が離婚するに至った場合、この事実は、慰謝料額を算定する上で当然に考慮されるものと考えられます。

 

 したがって、最高裁判所平成31年2月19日判決が意味を持つのは、不貞行為と離婚との間に3年以上の期間が存在するような場合に限られ、そうでない場合においては、不貞行為の相手方が負うべき法的責任のあり方に、大きな差異は生じないのではないか、と考えられます。

続く

弁護士 八木 俊行

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