コラム

44 結婚と離婚の法律問題(6) 婚姻の効力・同居義務

2019年03月17日

先回からの続き

 

<婚姻の効力>

②同居・協力・扶助

 夫婦は、同居し、互いに協力し扶助しなければならない、とされています(民法第752条)。すなわち、夫婦は、同居し、互いに協力・扶助するべき義務を負います。

 いずれも常識的に考えれば当然のことだとも言えるでしょう。しかしながら、これが法的義務の話となると、どのような場合に同居義務を履行したと言えるのか、配偶者の同居義務不履行に対し、他方配偶者はどのような手段がとれるのか、といったことが問題となります。

 同居義務に関し、配偶者が正当な理由なくこれを履行しない場合、他方配偶者は、どのような手段をとりうるのでしょうか。

 

 まず、夫婦は同居義務を負うものとされていますが、同居義務の具体的内容が一義的に決まっているわけではありません。例えば、その夫婦がどこで同居するのか、といった詳細は、法律によって明確に定まるわけではありません。

 同居義務の具体的内容は夫婦間の協議によって定まるべきものですが、解決できない場合もあるでしょう。

 夫婦など親族間の紛争を対象とする家事事件の解決手続のあり方を定めた家事事件手続法は、夫婦の同居に関する問題につき、家事調停、及び家事審判の申し立てをすることができると定めています(家事事件手続法第39条、別表第2の1)。

 したがって、夫婦間の協議によって同居に関する問題が解決できない場合、家事調停手続、あるいは家事審判手続での解決を選択する、ということが考えられます。

 

 では、配偶者の一方が、諸事情により、そもそも同居自体を拒否しているような場合はどうなるでしょうか。

 まず、家事調停は、紛争当事者間の話し合いと合意を不可欠の前提とする紛争解決手続です。同居義務を履行しない配偶者の一方は、調停による解決に同意しないでしょうから、この手続を通じて解決を図ることは難しいでしょう。

 では、家事審判手続を通じて解決を図ることができるでしょうか。家庭裁判所は、同居を拒む者に対して、当然に同居を命じる審判を下すことになるのでしょうか。この点が問われた裁判例がありますので、少々引用させていただきたいと思います。

 

 審判、あるいは決定によると、簡略化すれば次のような事例であったようです。

 

 <事例>
 当事者は、配偶者甲及び乙、その間の子・丙。一家は、当初は甲の両親と共に同居生活を送っていたものの、乙が子・丙を連れて家を出て、別居が開始した。
 そして、乙は、甲との離婚を求め、離婚訴訟を提起した。他方、甲は乙との同居を求め、家事審判を申し立てた。
 この間、乙が提起した離婚訴訟は、一審では乙が勝訴(離婚請求は認容)したものの、控訴審では乙が敗訴(離婚請求は棄却)したという経緯があった。

 

<佐賀家庭裁判所平成29年3月29日審判>

 甲が乙との同居を求めて申し立てた家事審判手続において、佐賀家庭裁判所は、乙に対し、条件付きで、甲との同居を命じる審判を下しました。なお、審判では、次のようなことが述べられています(審判の一部を抜粋)。 

「一旦婚姻が成立すると、夫婦は同居し、互いに協力し扶助する義務が生じるところ(民法752条)、夫婦の同居は夫婦共同生活における本質的な義務であり、夫婦関係の実を挙げるために欠くことのできないものであるから、同居を拒否する正当な事由がない限り、夫婦の一方は他方に対し、同居を求めることができる

「ところで、夫婦同居の審判は、その実体的権利義務自体を確定するというよりは、それがあることを前提として、その具体的内容を定めるものであるというべきである」

「相手方は長女と肩書住所で生活し、申立人はその実家で両親と生活している。相手方が申立人との離婚を求める理由に、申立人の両親との不和を挙げており、控訴審判決でもその事情自体は一定程度認定されているから、相手方に申立人の実家での申立人との同居を命じるのは相当でない。申立人は、相手方住所での同居を求めるようであるが、その住居が長女を含め相手方・申立人の3名で居住するに相応しいとの証拠がないばかりか、同居義務が強制履行を求めることのできないものである以上、申立人が相手方の承諾なく相手方住居に立ち入ることを許容するとは考え難く、そのような行為を許容するかの誤解を与えかねない相手方住所での同居という内容は相当とはいえない」

現実に、相手方と申立人との同居が実現するためには、まずは、例えば、書面での交流などの間接的な方法から始めて、第三者を交えるなどして直接面会をする機会を作り、さらに当事者のみで面会する機会につなげていくなどの手順を踏むことが考えられるが、その過程を審判で定めることはできないので、結局は、抽象的であれ、そのような過程を経て考えられる同居形態を定めるしかない」 

 

 これに対し、乙が不服申し立てをし、上級審である福岡高等裁判所に、佐賀家庭裁判所の審判の当否が審理されることになりました。

続く

弁護士 八木 俊行

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